茶師としての技量をはかる上で、段位というものは目安になると思います。大会優勝者は公の場で農林水産大臣賞までいただけます。そしてお茶業界で一目置かれる存在になります。私自身2013年の大会で優勝した経験は自信をもたらしました。しかし、それはあくまでも通過点。柔軟な考えを持って、変化するお茶に対応する力を養うこと。常にお茶を理解する姿勢が大切です。初心を忘れない心構えが、茶師として成長するための原点です。
世間一般的に、「茶師」についてわかっている人は少数派ではないでしょうか。そもそも急須でお茶を淹れる人が少なくなり、お茶といえばペットボトルで飲むものという認識が広まる中、茶師はますます一般から遠く離れた存在になりつつあるような気もします。だからこそ私たちは精進しなければならないと感じています。最大の武器である嗅覚を頼りに、お茶づくりの過程で仕上げの善し悪しを判断します。目や手など他の感覚は、鼻から得た情報を補うもの。私は日常的に「匂い」を意識することで茶師としての自分をいつも試しています。
市川園の家に生まれた私は物心ついた頃からお茶の匂いの中で育ってきました。「お前は日本一のお茶屋になるんだよ」と言われ続けた私の傍らにはいつもお茶がありました。そのプレッシャーと茶師の世界の厳しさから挫折を味わったこともあります。しかし結果的に「全国茶審査技術競技大会」で日本一になることができました。その点では周囲の期待に応えたと思います。お茶があったから成長できたと実感するとともに、これからも茶師の経験で培ったものを大切な財産と捉え、日本一のお茶づくりを実現していきたいですね。